三人目 下 『信じられません。我らが魔王が勝負に負けました。いくら手加減をしていたといっても、負けました。いくら我らが魔王が魔法がメチャ苦手で下手でも、負けました。いくらレポーターが異常な人間であろうと、負けました。いくらレポーターが狡猾で魔族のようにあくどい人間でも、負けました。いくら・・・・・・』 「あー!負けた負けたってうるせー!どーせ俺は負けましたよ!あー、負けたのなんか久しぶりだな・・・確か前負けた時は・・・・・・」 「誰に負けたんだ?」 「5歳の女の子」 「・・・・・・・・一体どんな勝負したんだよ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今流行の演劇団の名前当てクイズ」 「そりゃまたしょーもねーのやったな」 「だっていくらなんでも5歳の女の子に肉弾戦なんか仕掛けるわけにいかないだろ。それに勝負は女の子の方から仕掛けてきたんだ」 「それで?」 「・・・・・・・・負けたから女の子を無事に家まで送り届けてやったよ」 「・・・・・・・・・・・・あのさぁ」 「何も言うな・・・・・」 哀愁ただよう背中を同情するように見やったあと、ボーボに話しかける少年。 「それじゃインタビューするからマイク返して」 『それじゃ皆さんボーボはお別れの時間になりました。今から人間のレポーターが魔王様のインタビューをするそうです。短い時間でしたが、ボーボの話を聞いて下さってありがとうございました。それではどうぞ』 「えー!ボーボちゃんもう終わっちゃうの」 「あのレポーターよりボーボって奴の方が常識的で心臓に悪くなかったのになあ」 「やめるなボーボ!」 「レポーターひっこめー!」 などという聴衆の声がこの瞬間全世界であがったとか。 「それじゃあ魔王突撃インタビュー!を開始しようと思いまーす。」 聴衆の声もむなしく、インタビューを始めたのは人間の少年だった。 「魔王突撃インタビュー?そういやさっきもそんな事言ってたな。ってことは他の魔王のトコにもいくのか」 「ああ、もう二人くらい行きましたよ。ディスタカントの森とランディリスの砂漠の魔王」 「ディスタカントじゃない、ディスタカルトだ。ディスタカントってのはなまった言い方だからな。まあ――でも安全な奴から行ったんだな」 「あ、やっぱ安全なんですか。そーですよねー、俺魔王ってもっとこう『フハハハハハ!死ねオロカな人間どもめ!』ってカンジかと思ってたんですけど、全然違いましたし。やっぱこう、『人間なんかには手を下すまでもない!』とかそーゆーので安全だったんですか?俺」 火を噴く山の魔王―――フォークトゥリの魔王は、溶岩のように鮮やかな朱色の短髪をくしゃくしゃとかきまぜて言った。 「いんや。ディーの野郎は気まぐれだから、こう外見が気にいらねえとかうぜえとか昼寝の邪魔したとかそういう気に障るようなことをしねえかぎり人間なんかは気にも留めねえよ。人間は魔物に比べると弱っちいし注意も払う必要ねえからな。ラディはなぁ、感情無えからなぁ・・・なんか言わねえとなんにもしねえ奴だからな、誰かが殺せとでも言わねえ限り意図して殺すことはねーだろ」 「はぁ・・・かなり珍しいんですか?そういうのは」 「まぁな・・・魔物の本性は殺戮衝動だってのは知ってるだろ?だからディーみてえな酔狂な奴なんて他にいるわけねーよ。」 そこで腰かけていた岩から立ち上がり、手招きして歩きながら話し出す。 「そもそも魔王は実力を持った上で殺戮衝動って本能に流されねえ奴が選ばれるんだ。ラディの奴は本能そのものが無いと思うけどな。まぁ魔王に選ばれる時点で強くて変な奴ってことなんだろうけどよ、その中でも変わってるって事ぁアレだ、変人中の変人なんじゃねえの」 「そうなんですかー。じゃ他にはどんな魔王さんがいるんですか?」 「そーだな、まぁ後は血狂いのリィとサディストの権化と色ボケ石頭と・・・んー、あとなんか色んな意味ですっげぇのが・・・・」 「スッゲェの?」 「ああ・・・なんつーかこう・・・魔王つーよりオニとかキチクとか・・・ってオイ!何しゃべらせてんだよ!」 といってあたりを恐る恐るうかがう魔王に、不思議そうな視線を投げる。 「何って・・・勝手に喋りだしたんじゃないですか」 「う・・・ま、まあともかくだ、変なこと言わせんなよ!」 「はあ。じゃあとりあえず名前を」 「フツー知ってんだろ、フォークトゥリって」 「・・・みなさん、フォークトゥリ略してフォークはけっこうな善人のようです。照れ隠しに文句を言いながら横断歩道をわたるおばあさんの荷物を持ってあげるような魔王です。周りに誰もいないのを確認してから捨てられてた子猫にミルクとかをあげるような魔王です。」 「なっ・・・なんで知ってんだ!?っていうかオウダンホドウってなんだ」 動揺してかなりたじろぎながら聞き返すフォークトゥリ略してフォーク。 「・・・図星のようです。なんてわかりやすい、もとい単純な魔王さんでしょう。きっと、この調子では女の子にも弱いに違いありません」 レポーターの言葉をきいていた魔王フォークは頭を抱えてきかなかったふりをしていたが、不意にばっと顔を上げて言った。 「っあ――――――!悪かったなちくしょーどーせ俺は善人ですよ!村に行って「俺は魔王だ」って名乗っても誰も信じてくれねえし俺に挑んできやがった『魔王の称号』目当ての魔物ぶっ飛ばしたらなんか賞金くれたし成り行きで冒険者もとい勇者登録されちまったよ!しかもお前きちんとフォークトゥリだって名乗って魔法とかも使って見せたのに「目立ちたがりで魔法が使える勇者さん」つってこないだ盗賊狩りに駆り出されたんだぞ!?お前勇者に間違えられた魔王の悲しさがわかるかよ!おかげでハゲに笑われたし!」 自分の哀しい、というかやるせない過去をヤケになったように話す魔王。 「はあ・・・苦労したんですねぇ。・・・っていうかハゲって誰ですか?」 「ウィザーレルの石頭に決まってんだろ!あんにゃろう「大したことはない、お前に魔王はふさわしくなかっただけの事」とかほざきやがった!あのハゲふざけたことを!」 吼える魔王にのんきな突っ込みをするレポーター。 「ハゲてるんですか?その人」 「精神的にハゲなんだよ!ったく・・・あいつだきゃ本能に流されなくてもザコだ」 「そーなんですか。じゃあ他の魔王さんはザコじゃないんですね」 「そりゃあな。口先だけの奴らじゃねえし。ハゲをのぞいて」 「で、そのハゲがウィザーレルの魔王さんだと」 「そーなんだよあのハゲ、魔王じゃなけりゃ殺しに行ってるぜクソッ!」 忌々しげに宙を睨む。 「魔王さん同士だと殺しちゃダメなんですか」 ちょっと意外そうに訊くレポーターを、お前は魔王をなんだと思ってるんだという視線で見やる魔王。 「まあ、一応な。魔王にも守んなくちゃなんねえ決まりってのがあんだよ」 「それがなければ殺してるんですか?ずいぶんと因縁がありそうですねぇ」 「おーう腐る程あるぜ。ってか、これってインタビューなのか?なぁーんか違うような気がするんだけどよ」 「まあここまではほとんど俺の個人的な疑問ですからね。実はインタビューの内容は名前と先代の魔王のことと好きな物嫌いな物と好みの女の子と勇者についてしかないんですよー。名前は聞いちゃいましたしねえ。ってなわけで先代の魔王のことから訊いてみようと思いマース!はいどーぞ!」 ぐいっとマイクを押し付けられて、少々引きながら答える。 「先代の魔王ってのは知らねえぞ。オレぁ魔王に指名されるまで色んなトコ放浪してたしよ。そもそも魔王になんかなりたくなかったし」 「ちなみにそれは何百年前のことですか?」 「何百年?そんなに経ってるわけねえだろ。二、三十年前だぜ」 「あ・・・あの魔王様」 ボーボが控えめに発言した。 「先代の魔王様って、あなたのお父上であらせられたのですが・・・ご存じなかったのですか?」 ・・・・・・・・・・・。 場に沈黙が落ちた。 「人間達が魔物の毛皮をとるために魔物狩りを頻繁に行ったため、先代魔王様は人間の軍勢と戦われて・・・魔法のかかった地におびき出され・・・人間の罠にはまって・・お亡くなりになられたのです。その際、亡き魔王様の御遺言としてご子息であらせられるあなたさまに魔王の座を・・と」 ・・・・・・・・・・。 場に沈痛な沈黙が落ちた。 「ちょっとまて・・・親父が?死んだ?」 信じられないように頭を振り、付け足した。 「あの親父は生きてるぞ」 ・・・・・・・・・・・・・・。 場に微妙な沈黙が落ちた。 「あの・・・魔王様、信じられないのはわかりますが・・・先代の魔王様は確かにあの時・・・」 言いにくそうにボーボが口をはさむが、現魔王たる青年は首をふった。 「二十数年前に「俺仕事なくなったからどっか放浪してくるわ。お前は魔王に指名されたんだろ?まーせいぜいがんばれ」とかいってどっかに消えたぞ。今でも時々「差し入れだぁ!ありがたく受け取れ」とか「ラフィニア国の王子にもらった。分けてやるから後で返せ」っつーメッセージつきの酒が送られてくんだぜ。こないだなんか「初給料だ!人間ってちょっと働いただけで金くれんのな」って書いてあった」 ・・・・・・・・・・・・・。 間の抜けた四度目の沈黙が場に落ちた。 ボーボはフォークを見たまま唖然として固まっていた。 フォークは腕を組んで難しい顔をしていた。 レポーターはどういう顔をすればいいんだかという顔をしていた。 「オイ。マイクかせ」 まず魔王が動き、微妙に同情する顔に変化してきているレポーターからマイクを奪った。すうーっと息を吸い、ぴたっと止める。 次の瞬間。 「はめやがったなこのクソ親父ィ―――――ッ!!!!!」 マイクにむかって思いっきり怒鳴っていた。 「てめえ純真な息子をもてあそびやがって!何が死んだだぁ?さっさと帰って来いアホ!自分を死んだことにしてめんどくさい魔王の仕事全部オレに押し付けやがったなこのクソボケ!あーどーりで周りと話が合わないはずだよな!オレはてめーが生きてるって知っててまわりの奴は知らなかったんだからな!」 怒り狂うフォークを見やりながら、予備のマイクを取り出してレポーターはいった。 「なんというか、ここまでしっかりと罠にはまってくれると、ツボにはまりますよね。残念ですが、たぶんフォークはこういう運命から絶対に逃げられないんじゃないかなーとか思いますね。うん、性格的にいじめたくなるタイプですし」 それをきいて、「くっくっく。そのとおりだレポーター」と含み笑いをもらした魔族が数名いたとかいなかったとか。 フォークの親父の性格はともかく、とりあえずフォークがサディストの気を持つ者の嗜虐心を煽るのは事実だった。なにせ、素直・正直・怒りんぼと三拍子見事にそろった男なのである。乗せやすい・からかい易い・扱いやすいとくれば、もう最高のオモチャである。 そしてそこにとどめを刺しているのが『お人好し』という最強の事実だった。いくらからかって怒らせても、それが原因でフォークに嫌悪の情を抱かせるという結果はまずないと言って良い。ようするに、大体どんな事も「ゴメンナサイ」と謝れば許してくれるのだ。 ということを懇々と説明するレポーター。 「全くいじらしい魔王です。これで女で外見がかわいくてもうちょっと大人しかったらモロ俺のタイプなんですが」 とため息をつきつつ肩をすくめる。 「よけーなお世話だ!気色悪いことをいうなー!」 と悲しく叫ぶ魔王。 全世界の聴衆は、いわゆる『やられキャラ』のかわいそうな魔王に深く深く、心から同情したとか。 「っつーかなんか先代の魔王さんの話はもういいんで次言ってもらえますかー?好きな物と嫌いなものは?」 自分から招いた事態であるのにそのことを高い高い棚の上に放りなげて次の質問の答えを促すレポーター。 聴衆からは非難めいた叫びが上がった。 「ってめえなぁーっ!てめえが原因だろうが!少しはそこの所考えて発言しろや!」 魔王からも非難の叫びが上がった。 「俺が原因だろうとなんだろうとインタビューには答えるって約束だったじゃないですかー。それともなんですか、もう一回戦りますか?」 にいっと不敵に笑ったレポーターに、途端に怒りの冷めた魔王はいった。 「やりてえトコロだけどよ、約束は守んねえとな」 この手の奴は、こっちが乗れば乗るほど悪ノリが加速していく。やっべー、乗るところだった、っつーかぜひとも乗りたかった、と自分をいさめるフォーク。 「聴衆の皆さん、聞きましたか?フォークは今時珍しいくらいの生真面目チャンのようです」 至極真面目な顔で感心したようにレポートする。先程思ったことも忘れて突っ込んでしまう魔王。 「何だよ生真面目チャンて!いーじゃねーか真面目でもよ!真面目に生きたって別にいーじゃねーか!」 隣では、ボーボがこそこそと賛同している。 「っていうか魔王様に向けて『チャン』とはなんですか『チャン』とは!」 「そして真面目に生きて親父さんにだまされちゃった、と」 「・・・・・・・・まあな・・・・」 自分のコメントを無視され、なんだか落ちこんでしまったボーボをさらに無視してレポートを続けるレポーター。 「なんかその親父さんとは気が合いそうですねー」 それを聞いて、魔王が心底嫌そうな声を出す。 「うげっ、親父と同類か、お前・・・」 そのとき、はるか遠くの国、ラフィニア国にやとわれている傭兵達の入り浸っている酒場。そこではこんな会話が交わされていた。 「このレポーター一体何者なんだかな」 「さあな。それよか、この魔王もとんだお坊っちゃんだな。魔族とは思えねえや」 その声に、カウンターに座っている長髪の傭兵から返事が返る。 「根が善良だからな。小さいころからおちょくりやすくてなぁ、我が息子ながら面白い奴だったぜ。このレポーターとは会ってみてえな」 「あ?ムスコぉ?」 「ああ、俺にも息子がいてな、この魔王に性格がそっくりなんだ。それで他人事とは思えなくてな」 「へえー。お前息子いたのかシザー」 「まあな・・・元気にやってるみてえだな」 煉瓦色の髪とワインレッドの瞳を持った元魔王の傭兵は、遠く離れた息子に向け乾杯をした。 「いやーもー家庭の事情に首突っ込むつもり無いんスよ。なんつーか、勝手にやって下さい?みたいなー」 あさっての方向を見て肩をすくめる。 「自分で他人の家に首突っ込んだんだろーが!・・・まあ礼は言っとく。おかげで親父の企みがわかったからな」 「どーすんですか?」 「母上に言いつける」 そのとき、ラフィニア国のとある酒場で精悍な傭兵が飲みかけていた酒を吹き出し、そのあとなぜか頭を抱えてうなっていたとか。 「あ、やっぱ尻にしかれたカカア天下なわけですか。」 「やっぱりってなんだよ。オレが言ったってあの親父が動くはずねーだろ。親父が唯一弱いのが母上だからな。なんかこう、息子のオレから見ても危なっかしくてしょうがないな。ほんわ〜としてておっとりしてて、天然でニブくて・・・よくちょうちょとか追っかけてどっかに行っちまうんだよ・・・」 両手で意味不明のジェスチャーをしながら自らの母について語る。そうしていると、ただの心配性の青年に見える。魔族がこんな善良な顔をしていたら、人間と間違えるのも無理はない。 レポーターは、魔王フォークトゥリの哀しい過去を思い出してそう納得した。 「へー。そーゆータイプ好きですよ俺。いーなぁそーゆー娘。すごく好みだけど人妻だから手出しするのはやめます。安心してください、先代魔王サン」 「母上にてめーを会わせるわけねーだろ。」 顔を背けたマザコン青年は、斜め下を向きながら小さく続けた。 「・・・今も行方不明だし」 ぼそりとつけくわえられた最後の一言。それに、誰よりも大きく反応したのはとある酒場の傭兵だった。 再びぶっと酒を吹き出した傭兵に仲間が怪訝そうな視線を向けた。傭兵はしばらく咳き込んでいたが、やがて意を決したように立ち上がった。ラジオを引っつかみ勘定も払わずに酒場から飛び出して行く。 結局、その傭兵は朝になっても戻らなかったとか。 そして、結果的にその傭兵の分の酒代を誰が払うかということでその酒場では壮絶なジャンケン大会が繰り広げられたという。 「まあ俺にはナンパしてるヒマもないのでしょうがありませんね。好きな異性のタイプはなんですか?」 「いきなりかよ・・・ん――っと、普通に性格が良い子がいい。容姿はすっげーブサイクってんじゃなければ別に普通でいい」 「へー。フォークは癒しを求めてるんですね。まわりの人がみんなくせのある人ばっっかだから、普通の子がいいと。ふーん。じゃあ勇者についてどう思いますか?」 「勇者ァ?ああ、オレと勝負しに来るのはいいけど来るなら来るで途中で遭難しないでほしいぜ。オレんとこにたどりついた時にはもうみんなヘロヘロだもんな。もしオレに勝ったとしても無事に帰れねーから、もーちっと事前調査とかしてから来た方がいーんじゃねーの?人命救助も飽きたしよ」 レポーターが驚いたように身を引く。 「魔王さんが人命救助なんてしていいんですか?」 「んなこといったってほっとくとこの山白骨死体で埋まっちまうんだよ。すっげー頻繁に来るしよ、人間が」 しょーがねーだろとばかりに肩をすくめてレポーターを見返す魔王。はあとため息をついて近くの岩に座る。 「へぇ・・そうなんですか。ため息つくと幸せが逃げますよ」 「ほっとけ。まあ・・・そんで人間がそこらへんで遭難してごろごろ転がってんだ。たいていは火山ガスのせいで気絶してっけど」 「気絶してる人をかついで山の麓とかにおろしてるんですか。気絶してる人に触るなんて、フォークはけっこうエロかったんですね。」 しみじみと語るレポーターに即座に噛み付く魔王。 「誰がエロだ!大体、気絶してねーと殺されるだのなんだのとうるせーから面倒なんだよ!」 「気絶してない人はどうやって運ぶんですか?」 「そこはアレだ、気絶させて運ぶ」 「ふむふむ、やっぱそーするしかないですよね。気絶してたほうが楽ですもんね。それじゃ聴衆に一言!」 「家出娘が三人いるから心当たりの奴引き取りに来い」 「ちなみに名前は?」 「リレオ家のクリスティーナ、ロロス王家のナリーシャ、司法国家ラートヌールの総代司祭の娘ティーティカ」 それを聞いて、リレオ家のメイドは主人にこの事を知らせに走り、ロロス王家の重臣は処理していた書類をばさりと落とし王に知らせに侍従を呼び、司法国家ラートヌールでは総代主教本人が椅子を鳴らして立ち上がったとか。 「だそうです。心当たりの方は魔王フォークトゥリのところまで〜。そんじゃ最後の最後に次に行く魔王さんに対するアドバイスなどお願いします。次の魔王はウィザーレルの予定です。」 「何ィ!?お前あいつのところに行くのか?やめとけ!あんな色ボケハゲのトコに行ったら・・・えっと・・・色々されるぞ!」 「じゃあどの魔王さんがいいんですか?っていうか色々ってなんなんですか、色々って。」 その問いに親切な魔王はうーん、あー、うー、とかうなったあと、言った。 「あいつのハーレムに入れられるぜ?お前、モロにあいつの好みの顔だから」 「はあ?好み?・・・・・・・。・・・。・・・・・・ああ、そーゆーヘンタイ趣味の魔王さんなわけですか。アドバイスありがとうございます。大丈夫ですよ、もしセクハラされたらブッ殺してきますから」 にこやかに宣言するレポーター。その柔らかな笑みに、ボーボが後ろで「ひいっ」と悲鳴をあげ、魔王はちょっとビビりながら「お、おう。」と返事をした。 「それじゃこの辺で失礼しまーすさよ〜な・・・?なんですか?」 「あ―――・・・これってディーの奴も聞いてると思うか?」 「ディスタですか?さあ、どーでしょーねえ。気まぐれだからわかりませんよ。」 本当にわからないといいたげに困った顔をするレポーター。ぽりぽりと頬をかいて困った顔をしていた魔王は困った声で困ったようにいった。 「そーか・・・うーん困ったな・・・まあ、ディーがこれを聞いているとゆーことで言うが・・・ディー、お前のトコの召使二人と天使がいなくなったって聞いたけどな、ハゲのとこにいるらしーぜ?あの色ボケ野郎がさらったらしい。あとで聞いてみるといいかもだぜ。じゃ、オレからは以上」 「はい、じゃこれでサヨナラですね。それじゃーみなさんまた来週〜」 『来週!?』 聴衆のよくわからない突っ込みが炸裂するなか、放送は普通に切れた。 「あーつかれたー。んじゃなーフォーク。もう二度と会わねーかもしれねーけどまたな」 「おーう。一つ聞いていいか?」 「えー?これからウィザーレルのハゲ魔王とやらのとこにいくから疲れるような事したくないんだけど戦るのか?」 疲れたと言っておきながらまだまだ戦う気満々の少年。疲れたような表情とは裏腹にその目には鋭い光が燈っている。それに心が奮えたちそうになるのを抑えて、呆れたように魔王は言った。 「オレだって戦りてーのはヤマヤマだっつの。質問が終わってからだ、そーゆーのは。で、質問だが。魔王にインタビューして何がしたいんだ?ただの道楽にしちゃちょっと危険すぎるだろ」 「うわお。かなり直球の質問をくらった。もうダメだ。俺の人生今否定された。確かに道楽じゃねーけど実は道楽にしていいかななんて思ってたのに。フォークにいじめられた。つーかなに、いーじゃん別にどーでもいーだろンな事。俺の勝手だろー」 わざとらしくうちひしがれたポーズをとる少年。が、途中で面倒になったらしくいきなり態度が横柄になった。その態度に尚更呆れる魔王。 「真面目に答えろよお前・・・道楽じゃねーならなんで・・・あーなんかもうどーでもいい。こーゆー難しいことぁオレは苦手なんだよ」 「よし、納得したか。フォーク、ジャンケンで俺が勝ったら山の麓まで俺様を運べ。はいジャーンケーン」 「えっ!?ちょっなんだそのメチャクチャお前優先の勝負!っておい!」 「ポン」 少年、グー。 魔王、チョキ。 「よし勝った」 「・・・・・・・・卑怯だ、絶対に卑怯だろオイ」 結局少年を山の麓まで送ってやった魔王。あっという間に走り去っていく少年の背中を見ながら、思った。 魔王を訪ねて歩くあのレポーターは、自分よりもケンカ好きなのかもしれないと。 後日、いつも街に下りる時とは別人に化けて街に下りた魔王フォークトゥリは、自分がアイドル化しているのを発見してしまい、諸悪の根源たるレポーターを死ぬほど殴り飛ばしてやりたくなったとか。 |